ひとことの魔法
2005年 06月 21日
この間そんな電車に乗った。ドアが閉まる直前にさらに数人の人たちが乗り込んで来て、その中にその数人に押し流されるように乗って来た一人の女性がいた。「おー、がんばって乗るね〜」とは思ったけれど、自分もギリギリで乗り込むことも多々あるからそれ以上の感情は何も無かったけれど、かなり混んでいたから、その彼女と彼女が腕にかけていたバッグが「あちら」と「こちら」に引っ張られ、彼女のかばんは引力の法則とは違う形で人と人の間「宙に浮いている」状態になってしまった。それが私の目の前。「引力とは違う力が働くんだよな〜」と思っていたら、その女性が私に向かって
「すみません。大丈夫ですか?」
と声をかけてくれた。
狭いかなり混んだ電車の中。この空間の中で知らない人が舌打ちをしたり、ムカついているオーラをがんがんに出したり、ぶつぶつ、もしくは大きな声で文句を言っていたり、酔っぱらって何やら分からないことを言ったりしていることは何度も経験して、そんなことが起こってもちょっとだけ嫌な気持ちになるだけで、「いつものこと」と思っていたと思うのだけど、今日は逆だった。
彼女の腕にかけていたかばんは、革製の固いかばんだったから、角度が違っていたらもしかしたら体に当たって痛かったりしたのかもしれないけれど、実際のところは全くそんなこともなかった訳で、この空間の中で「気遣ってくれた」ことが何だかとても嬉しかった。
「あ、いえいえ、大丈夫」
と言葉を返し、めずらしく満員電車でいい気持ちになっている自分に気づいた。
ほんのちょっとした気遣い。更にひとこと声をかけるだけ。なんだけど私はなかなか声を出すことが出来ないから、この女性のことを「素敵だ」と思ってしまった。混んでいる電車という非人間的な空間だからこそ、私も「ひとことの魔法」をかけられるようになったらいいな、と思った夜だった。