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制作プロジェクトHaLoを主宰するayakoが、音楽、写真などHaLoとしての活動について、また、mac、旅、映画、本、猫、食べ物、気になったニュースなどについて、徒然に綴ってます。


by ayako_HaLo
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映画『バス174』

2000年にリオデジャネイロで起こったバスジャック事件の後、その模様をリアルタイムで伝えたメディアの膨大な映像を繋いだ部分と、バスジャックの犯人サンドロを知る人たち/事件の現場にいた人たちへの事後のインタビューを通じて、彼の生い立ち、彼が貧困の中で抱えざるを得なかった問題を描き出す部分からなるドキュメンタリー。

犠牲者を出してしまったこの事件の一部始終がフィルムに収まっている。その時の様子を捉えた膨大なカメラの数。警察がきちんと交通規制できず、停車状態で人質をとって立てこもったバスをものすごい数の一般市民とメディアが取り囲んでしまう。それにより、長時間の立てこもりに犯人への憎悪が募り、取り囲む人たちの中から「殺してしまえ」という声が広がるほどに暴動化してしまった。一方で、そこにカメラがあり、ものすごい数の「目」があったからこそ、警察は早い段階で(それが可能だったにも関わらず)サンドロを狙撃するという選択肢を取れなかったということがある。彼は狙撃されるべきだったのか??

色々な問題が浮かび上がって来る。日本とは桁違いのブラジルの貧富の差。けれど、これも対岸の火事では決してない。日本の中でも貧富の差は確実に広がって行っていると感じているし、このループに入ってしまったら、元々有るところには更に実入りが生じ、ないところにはどうがんばっても入って来ない、という悪循環を繰り返す。そして貧富の差を助長する。

ブラジルの警察、刑務所の問題。どうがんばっても這い上がれない人たちが、やむなく警官になっている。そのタフな現場と環境/装備の悪さにより、その現状は生まれており、そんな風に警官になっているから誰も自らの警官としての仕事に誇りがない。弱いものに暴力を振るう。

劣悪な刑務所内の環境。床に寝るのさえ場所が足りない暗くて狭い監房の中。刑務所の中での暴力の横行。中に入ったら更に暴力的に、更に悪くなって出て来ると言う現状。

だけれど、その現状を良く撮らせてくれたな、と思えるほどフィルムに収まっている。日本ではそんな現場は蓋をして決して見せてくれない。見えていないところでは何が起こっているのか分からない。分からないからこっそりヒドいことは起こる。そして「善」は「悪」に対してどんなことをしても、その言い訳が成り立つ。色々な部分を外から見られないように規制をかけたり、自主規制をしたりしている日本の方が危なくはないか。

それから。このドキュメンタリーを見たからこそサンドロの境遇に同情心も生まれるし、彼は人質を傷つける気はなかったんじゃないか、と思うのだけれど、そのパニックの現場で警官に怒声を浴びせ、「殺すぞ」と怒鳴り続けている彼が人質を傷つけないのじゃないか、と考えることはきっととても難しい。彼には「悪」の仮面が貼り付いてしまい、その「悪の仮面」をたたき潰すことをその場の恐らくほとんどの人たちが願ってしまった。そんな集団に入ってしまったら、強力に一定方向に向かう人の気持ちの中に入ってしまったら、立ち止まることは難しい。

ブラジルは大変だな、なんて人ごとだと思ったら日本はホントにヤバい。
「悪」のレッテルを簡単に貼ること、その心を思いやることなくその「悪」の抹消を願うこと、そんなことは今現実に毎日起こっている。全ての内容がそうだという訳ではなく、中には良心的に作っている人もいるのを知っているけれど、おおむねメディアは「視聴率」「部数」「数」、つまり「カネ」にしばられ、熱狂を助長する。とことんまで盛り上げようとする。

この仕組みって、音楽業界もそっくり。ある種の「考えなくていい刺激」が欲しいのだ。何かが流行ると同じ波に乗りたがる。

作る側と受ける側、何もかもが鏡。自分たちの姿が映っている。そして鏡の中の自分たちを見て、人はますます過激に、鈍感になる。

「悪」と信じたものの周囲にまで何の解決にもならない「いやがらせ」まで始めてしまうほどに。

映画『バス174』
6月4日(土)〜7月29日(金)@ライズXなど全国随時上映予定
by ayako_HaLo | 2005-05-24 00:17 | films/pics